2009年09月24日

あなたがここにいて欲しい。

先日亡くなった小田原のゾウ、ウメ子さんのことについて、
たくさんの方からお便りをいただきました。

みなさま、どうもありがとうございます。
以下、お返事の代わりと、それからウメ子さんへも宛てて、
お便りのようなものを書きました。ここに残しておこうと思います。




初めて小田原に行ったのは、二十年前くらいのことだ。
車で伊豆に行く途中、箱根の山を越える前に、城址公園で休憩をした。

せっかくだからと天守閣を観に行って、心の底から仰天したのは、そこに一匹のゾウがいたからだ。天守の真ん前で、ゾウが当たり前のように鼻を揺らしている。

『ゾウと城』、それはとても異様なコントラストだった。
だけどそのとき咲いていた桜とか、水浴びをするスズメとか、そういうものとも相まって、それはとても愛のある風景だった。


それからしばらくして小田原に住む友人ができ、何回か小田原に行った。
エンジニアの仕事をするようになって、出張でその街に行くようにもなった。


小田原ってのは素晴らしい街だ。何というが突き抜けた明るさがある。
改札の上に巨大な提灯が飾ってあって、歴史も海も山もあって、ゾウもいる。
駅のそばにある守谷のあんパンは、日本一のあんパンだ。

ヤンキーが目立つ街で、アフロの高校生を初めて見たときは腰を抜かしそうになった。それから大雄山線の中で女子高生がチーカマをかじっていたのにも衝撃を受けた。二十五歳くらいの頃の僕に、「これ食べる?」と、前席のおばあさんがキャラメルを勧める。


だけど何と言っても、僕のなかでは小田原と言えばゾウだった。
いつ行っても、ゾウは以前と変わらず城の前にいてくれる。


僕が最後にウメ子を見たのは、二年前のことだ。
まだ生きているか、そればかりが気になって城址公園に寄ったのだが、
ウメ子は小田原のヌシとして、優雅に鼻を揺らしていた。
遠足の幼稚園児や、観光する外国人に人気みたいで、そのことを何だかとても嬉しく思った。彼女はもう六十歳を越えていたと思う。

その日、僕は初めて小田原城の天守閣に登った。
最上階からは箱根の山が見え、反対側には海が広がっている。

眼下にはゾウ舎があった。
こんなに近くに海があることを、ウメ子は知っているんだろうか、と思った。
すぐそこに海があるんだぜ、と僕は言いたかった。



小説『あなたがここにいて欲しい』を書き始めたのは、三年くらい前のことだけど、実際には二十年前に梅子に会って以来、ゆっくりゆっくりその小説を書き進めていたような気がする。

その感じは、小説の中での時間の流れ方と無関係でないのかもしないな、と、後になって小説を読み返すと思う。
小説は主人公の幼稚園時代から小、中、高、大学生と、時にぶっちぎりのスピードで進むのだけど、でも時間はゆっくり流れている。
ちょうどウメ子が城の前で鼻を揺らしている姿にも似て。


爐△覆燭ここにいて欲しい
ずっと長生きして欲しいなと願っていました。
今は、ありがとう、と伝えたいです。




Posted by nakamurakou at 22:37