受賞の言葉
中村航
最初は、自分には何が書けるのだろう、という疑問だけがあった。何でも書けるはずだ、とも思ったし、いや何にも書けないんだ、とも思った。結局、決めるしかないと思った。書くのか、それとも書かないのか、どっちだ?
僕は書くことに決めた。強い気持ちでそう決めると、書けるはずだという気分が少しだけ降りてくる。でもすぐに何にも書けないという事実に突き当たってしまう。未だ日常はその繰り返しで、よし今日こそ書こう、とあいも変わらず毎日毎日決め直している。
リアルに掴めるものなんか何もないというのは絶対的な事実だけど、それでも何かを掴んだという実感は存在する。それらは共存する。だから進もうという情動を思い切り肯定したい。十九、二十の頃の自分にそう伝えたくてこの小説を書いた。でも本当は現在の自分を鼓舞したかったんだと思う。
素晴らしい賞をいただき、心から嬉しい。この賞に関わる方々へ、『ぐるぐるまわるすべり台』の完成まで伴走してくれた方々へ、友人、それから全ての読者の方々にお礼を言いたい。ありがとうございました。